なぜ、あの優秀なマネージャーは仕事を抱え込み、潰れてしまうのか?意外と知らない5つの心理的ワナ
1.0 はじめに
あなたの職場にもいませんか?
いつも忙しそうで、電話対応から資料作成、部下のタスクの細かな修正まで、何から何まで自分でやっているマネージャー。
まるで一人で会社を背負っているかのように見えますが、その姿は本当に理想的なのでしょうか。
「仕事熱心だから」「責任感が強いから」——そう考えるのは簡単です。しかし、マネージャーが仕事を抱え込んでしまう背景には、単なる勤勉さだけではない、もっと根深い、そして意外な理由が隠されていることがあります。
本記事では、書籍『マネージャーの問題地図』(技術評論社)をもとに、「何でも自分でやってしまうマネージャー」が陥りがちな5つの意外な落とし穴と、それが引き起こす深刻な悪循環について解説します。
2.0 「何でも屋マネージャー」が陥る5つの意外な落とし穴
なぜマネージャーは部下に仕事を任せず、自分でやってしまうのでしょうか。その背景には、大きく5つの原因があります。
2.1 ① 現場を離れるのが寂しい
特に自身が優秀なプレイヤーだったマネージャーに多く見られる傾向です。部下に教えるよりも自分でやった方が早く、そして何より楽しいと感じてしまいます。プレイヤーとしての仕事は成果が目に見えやすく、達成感を得やすいため、その心地よさから抜け出せなくなってしまうのです。
もちろん、これはマネージャーが本来やるべき「未来のための仕事」から目を背けさせる危険な罠です。ただし、もしその目的が「ベテランの技術継承やナレッジ継承」であるならば話は別です。部下の隣で一緒に手を動かし、意図的にスキルを伝承するのは、マネージャーの重要な役割の一つと言えます。問題なのは、そうした戦略的な意図なく、ただ自分の達成感のために現場仕事に没頭してしまうことです。
2.2 ② 自分のこだわりを捨てられない
「仕事の進め方は、自分のやり方が一番だ」という強いこだわりを持つマネージャーも、仕事を抱え込みがちです。部下の仕事の進め方やペース、品質が自分の基準と少しでも違うと、つい口を出して横槍を入れたり、細かく修正を指示したりしてしまいます。
その結果、アドバイスのつもりが「ダメ出し」になり、部下の主体性を奪います。最終的には「もう自分でやった方が早い」と、部下から仕事を取り上げてしまい、結局すべてのタスクを自分でこなすことになります。
2.3 ③ 部下を信頼していない
仕事を任せられない根本的な理由の一つが、部下への不信感です。「どうせ自分の思い通りにはやってくれないだろう」「任せたら失敗するに違いない」という考えが根底にあるため、安心して仕事を任せることができません。
この不信感は、常に部下の仕事に介入し、結局は自分がやり直すという行動につながります。これは部下の成長機会を奪うだけでなく、マネージャー自身の「部下は信頼できない」という思い込みをさらに強化する悪循環を生み出してしまいます。
2.4 ④ 仕事の範囲や権限があいまい
「どこまでが部下の責任で、どこからがマネージャーの仕事か」という線引きが明確でない場合も、問題が生じます。責任範囲や権限があいまいだと、何か問題が起きたときや判断に迷う場面で、マネージャーが「自分の仕事だ」と判断してタスクを巻き取ってしまいがちです。
明確な役割分担がないことは、マネージャーが本来やるべきでない仕事にまで手を出す言い訳を与えてしまいます。その結果、部下はいつまでも指示待ちになり、自律的に動くことができなくなります。
2.5 ⑤ 自分の仕事が整理できていない
そもそも「マネージャーとしての自分の仕事は何か」が明確に定義できていないケースも少なくありません。自分の役割が整理できていないため、目の前に来た仕事をとりあえず片付けるという場当たり的な対応に終始してしまいます。
重要な会議に出席したかと思えば、部下でもできる資料の誤字脱字を延々とチェックしているなど、優先順位がつけられていません。これは、本人も気づかぬうちに「1人パニックの呪い」に陥っている状態であり、チーム全体の生産性を著しく低下させます。
3.0 「何でも自分でやる」が生み出す恐ろしい悪循環
マネージャーが仕事を抱え込むスタイルは、本人の疲弊だけでなく、チームと組織全体に深刻な悪影響を及ぼす悪循環を生み出します。
このスタイルを続けると、以下のような事態に陥ります。
- 部下が育たない: 仕事を任されないため、経験を積む機会がなく、スキルが向上しない。
- マネージャー自身が成長しない: 現場仕事に追われ、マネジメントスキルを磨く時間がなくなる。
- マネージャーと部下の信頼関係がなくなる: 部下は「信頼されていない」と感じ、モチベーションが低下する。
- 他部署や取引先からも信頼されなくなる: チームとしてのパフォーマンスが上がらず、外部からの評価が下がる。
- 組織が成長しない: 個々のメンバーが成長しないため、組織全体の力が弱まる。
- 組織の魅力がなくなる: 成長機会のない組織は、魅力的に映らない。
- いい人材やいい仕事が集まらなくなる: 魅力のない組織には、優秀な人材もやりがいのある仕事も集まらない。
最初は善意や責任感から始まった行動が、気づかぬうちに組織の未来を蝕む恐ろしいサイクルを生み出してしまうのです。
4.0 悪循環から抜け出すための第一歩
この負のスパイラルから抜け出すために、まず取り組むべきことは何でしょうか。それは**「マネージャーの仕事の棚卸し」**です。
自分が今抱えている仕事をすべて書き出し、「マネージャーである自分にしかできない仕事」と「部下に任せられる仕事」に分類することから始めましょう。部下に仕事を任せることは、単に自分の負担を減らすだけでなく、部下に貴重な「成長機会」を与えることでもあります。
仕事を一つひとつ見直す際に、常に自分にこの3つの問いを投げかけてみてください。
「この仕事、マネージャーの自分がやるべき仕事かしら」 「だれかに任せられないかな」 「だれかに任せたら成長機会を与えられないかな」
この自問自答こそが、あなたを「何でも屋」から脱却させ、チームと組織を成長させる真のマネージャーへと導く第一歩となるはずです。


